栄養学の面から言うと、魚介類は良質なタンパク質や、体に良いといわれる多価不飽和脂肪酸のオメガ3脂肪酸を豊富に含むものとして、積極的な摂取が勧められています[1]。しかし、欧米では、魚の栄養的な利点は認識されているものの、多くの魚が水銀などの重金属に汚染されていることによる健康への悪影響が危惧されています[2]。
水銀はなぜよくないのか
水銀は重金属の一つで、常温で唯一液体の状態になる金属元素です。揮発性が高く、さまざまな排出源から環境に溶け込み、汚染が広がります[3]。
排出源の代表的なものとして化石燃料が挙げられます。石炭などを燃やす際に水銀が空中に排出され、それが雨などにより地上に落ちて地中にしみこみ、河川を流れ、そして海に流出するのです[4]。川や海に流れ出した水銀は微生物によりメチル水銀に変化しますが、これが特に有害だといわれています。それをプランクトンが食べ、そのプランクトンを魚が食べ、そして人の口に入るというわけです[5]。
人の体内に入って蓄積された水銀はさまざまな弊害を引き起こします。大きな影響を受けるのが脳や神経組織[6]。特に、発達段階にある小児や、妊婦への影響が心配されています。お腹の中にいる胎児はメチル水銀を排出できないので、母親が摂取し過ぎてプラセンタにまで到達すると胎児の発育に問題が生じます[7]。米疾病予防センター(CDC)が2005年に発表した報告書では、出産可能年齢の女性17人に1人の血中水銀濃度は5.8㎍に達しており、胎児にダメージを与える恐れがあると警告しています[8]。
世界保健機関(WHO)の報告によると、水銀の蓄積によって引き起こされる症状は、アトピー性皮膚炎、記憶力低下、情緒不安定、中枢神経障害、肝機能障害、運動失調などさまざまです。小児の近視の進行や、重度の遠視にも関連する可能性が指摘されています[9]。
水銀は中枢神経系構造と強固に結合するため、積極的な排泄措置を取らなければ、15年から30年の長きにわたって、中枢神経系にとどまり続けると考えられます[10]。