全長4mほどある「小腸」は人間の栄養の消化、吸収を担っています。この小腸、大腸と違ってあまり細菌が存在しないのが健康な状態[1]。でも、様々な理由で小腸に細菌(いわゆる善玉菌も含め)が大量発生してしまうと、多くのやっかいな慢性病の原因となるのです。IBS(過敏性腸症候群)や消化器官のトラブルにおいて、一部の研究では実に80%近くの患者がある共通の原因を抱えていることがわかってきています[2]。それが小腸内細菌異常増殖症。英語だとシーボ(SIBO)。Small Intestinal(小腸) Bacteria (バクテリア⁻細菌)Overgrowth(増殖)の略語です。
小腸の働きを理解する
食べ物は、胃から大腸へ向けて流れていき、栄養のほとんどは小腸で消化、吸収されます。つまり小腸は「身体に良いもの」を選別して血流に取り込む働きがあり、逆に「身体に良くないもの」は大腸へ送り出し、排泄させる仕組みを持っています。
それだけではありません。小腸はリンパ系細胞が集まっていることから、免疫系統をつかさどる重要な臓器だということがわかっていますが、トラブルが起こると消化や吸収が正常に行われず、未消化のタンパク質が血流に乗ってしまいます[3][4]。免疫系統では、未消化タンパク質は「異物」としてとらえられるため、アレルギー反応を起こします[5]。このため、小腸の健康は、多くの自己免疫系疾患に関連があると考えられているのです。
大腸には多くの細菌が存在し、これらは人間の健康のためにとても重要な働きをすることがわかってきていますが、小腸には本来、大腸と比べてあまり細菌は存在しません[6]。しかし様々な理由で、小腸のぜん動運動が低下し、大腸などに常駐するバクテリアが小腸に逆流してしまうことがあります[7]。小腸の腸内環境がバクテリア発生に適したものだと、この逆流したバクテリアが繁殖してしまい、腸粘膜がただれ、健康上の様々なトラブルを起こすことがあります[8]。それがSIBO(シーボ)です。
多くの人が患っているものの、その原因究明が難しいとされている過敏性腸症候群も大半は実はSIBOが原因ではないかと考えられています[9]。欧米では2000年頃からSIBOという概念が提唱され、研究が進められてきました[10]。しかし日本ではまだあまり知られていない概念であり、医療現場でも対策があまり進んでいないのが現状です。そのため、SIBOの影響によるIBSなどの消化器トラブルを抱えている患者に、効果的な治療を提供できていないケースが多いのではないかと推察されます。