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薬を使わない内科医が勧める糖尿病の根本治療法

薬を使わない内科医が勧める糖尿病の根本治療法

 

私が研修医を終えて最初に勤務したのが東京のとある糖尿病クリニックでした。そこでのさまざまな経験を通して感じたことが、その後の私の医師としてのキャリアに大きく影響を与えました。この記事は、その体験を通して学んだことを中心に、現代人の多くが悩んでいる糖尿病に関するさまざまな視点からの情報を盛り込んでいます。少しでも皆様の参考になれば幸いです。

 

私が薬を使わない内科医になった理由

私は父が内科医で、小さい頃から薬を疑うことなく当たり前に使う環境で育ちました。風邪をひくとすぐに抗生物質を飲み、皮膚に異常があればすぐにステロイドも使っていました。ただ、10代からホルモンのバランスが悪かったということもあり、西洋医学は対症療法でしかないことを自分の身体を通して分かっていました。そのため、人はなぜ病気になるのか、健康な身体でいるにはどうしたら良いのか、常にそうした問いの答えを探していました。

医学部に入って学んでも、多くの慢性疾患は原因が不明、もしくは生活習慣によるもので、それに対する薬はどこかの代謝をブロックしたり、足りないものを補うものしかなく、それらの薬はずっと飲み続けなければならない、というものばかりでした。私が望んでいたのは薬の必要のない健康な身体であるのに、西洋医学は病気の診断・治療・対処にとどまっていて、薬では健康になれないことを知ったのです。そこで、健康で元気な人がどういう食事をしているのかを学ぼうと思いました。

研修医の頃、当時70歳近くなのにとても肌ツヤが良く、スタイルも良く、バイタリティがあり、しかも血液検査も全て基準値範囲内というスーパードクターに出会いました。早速どんなものを食べているのか聞いてみると、食事の大まかな栄養素のバランスを決まった割合や順番で食べ、抗炎症作用のある脂質を多めに摂取するゾーンダイエットをもう8年以上続けているとのこと。それは血糖値が乱高下しないような黄金比で食べることで内臓脂肪を減らして体内の炎症を抑える、というものでした。

当時、食事療法といえばカロリーやビタミン、ミネラルの1日摂取量を計算するものばかりでしたので、食事で炎症を抑えるという発想はとても新鮮でした。糖尿病や高血圧、脂肪肝、脂質異常症など全ての疾患のベースに内臓脂肪の蓄積による慢性炎症が関わります。それらは互いに関連していて、これら全てを改善させる方法はただ一つ、薬ではなく食事を変えることだ、とはっきり分かりました。そしてゾーンダイエットの食べ方を栄養外来で推奨するようになりました。それが薬を使わない内科医誕生のきっかけです。

 

全身の慢性炎症を引き起こす糖尿病のメカニズム

次に糖尿病とはどんな病気なのかをお話しします。ここで取り上げる糖尿病は、全糖尿病患者の9割以上を占める2型糖尿病です。この記事では糖尿病=2型糖尿病として捉えてください(1型糖尿病は自己免疫などが影響するタイプで、多くは20歳未満で発症し、インスリン治療などが必要です)。

糖尿病ってどんな病気?と聞かれて多くの方が「血糖値が高くなる病気」と答えるでしょう。では血糖値が高いとなぜいけないのでしょうか?その答えは「全身の慢性炎症が引き起こされるから」です。血糖値が高いとなぜ全身の炎症が引き起こされるのかメカニズムを説明します。

まず、人間は食事をすると血糖値(血液内のブドウ糖濃度)が上がります。食べた物が身体に吸収され、ブドウ糖となって血液中に入ってくるためです。食べた物が血糖に変わる割合と速度は、食品の栄養素の種類によって異なります。栄養素が血糖に変わる割合と速度は、糖質がいちばん高くて速い。つまり、糖質をたっぷり含んだ食事は、血糖値を急上昇させる大きな要因となります。

では、血糖値が急上昇すると何が問題なのでしょうか?血糖値が高い状態が続くと血管の内側(内皮細胞)が損傷され、炎症が引き起こされます。炎症によって生じた活性酸素は細胞を傷つけたり死滅させます。このような活性酸素による酸化ストレスが高い状態が続くと、私たちの体を構成する細胞のDNAやタンパク質、脂質、糖質が酸化されていきます。現在ではさまざまな病気において、これらの酸化ストレスにより変化した分子が蓄積していることが分かってきました。

糖尿病では、酸化された糖とタンパク質が結合し、異常な糖化タンパク質が増えていることが分かっています。また、炎症によって動脈硬化を起こした血管では、酸化された脂質が蓄積し、血管の内腔が狭くなり、血液が流れにくくなります。糖尿病の合併症というのは全身の血管のトラブルによる症状で、末梢神経や目の網膜や腎臓には細かい血管が集まっていて炎症により障害を特に受けやすいのです。

このような全身の炎症による酸化ストレスを防ぐため、血糖値が高くなると膵臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンが分泌されます。しかし、実はこのインスリンは余剰エネルギーを脂肪に変えて蓄積する作用も有しています。蓄積した内臓脂肪からはさらなる炎症を引き起こす物質が放出され、インスリンの働きを阻害し、そのためさらに高血糖を引き起こし、さらにインスリンが必要になるという悪循環が生じてしまいます。こうして膵臓がインスリンを大量に分泌し続け疲弊した結果、膵臓の機能が低下し、やがて血糖値が常に高い状態である糖尿病を発症します。糖尿病と診断された時点ですでに膵臓の機能は半分以下になっていると言われています。このように糖尿病とはある日突然発症するものではなく、きっかけは毎回の食後高血糖による脂肪肝など内臓脂肪の蓄積から始まるのです。

 

2型糖尿病の一般的な治療法とその欠点や限界

では、一般的な2型糖尿病の治療法を見てみましょう。まずは食事と運動療法、そして薬物療法となります。

食事療法で用いられるのは主治医によって決められた1日のエネルギー量(指示エネルギー)とそれに基づく食品交換表による単位計算です。それが非常に分かりづらく、患者さんが最も苦戦したり挫折したりする理由の一つとなっています。正直な話、食品交換表を使って上手く血糖値コントロールができる方はそう多くはないのが現状です。また、食品交換表はカロリーベースで考えられているため、糖質の種類などの情報がありません。血糖値は糖質の量だけではなく種類によっても大きく変わってきます。なるべく血糖値の急上昇を防ぐには食物繊維を先に摂取し、血糖値を急上昇させにくい(つまりGI値=グライセミック・インデックスが低い)食品を選ぶ必要があります。また、同時に体内で生じた炎症を速やかに抑制し、活性酸素を除去する必要がありますが、それらの食材選びの情報が欠如しています。

次に運動療法についてですが、インスリンの効果を高めるには有酸素運動と筋力トレーニングが有効です。一般的にややきついと感じるくらいの中等度の強度の有酸素運動を1回につき20~60分、1週間に150分以上行うことが推奨されています。特に血糖値が高くなる食後1~2時間頃に運動するのが良いと考えられています。ただし、血糖値を下げる薬やインスリン治療を行っている方は低血糖にならない時間帯を選びましょう。さらに、糖は筋肉でも消費されるため、筋力を増強する筋力トレーニングも組み合わせることによってより良い治療効果が生まれます。ただし運動は継続することが大切です。また、先ほど糖尿病の本質をお話しした通り、糖尿病の根源は日々の食事の後の高血糖やそれに続く慢性的な炎症なので運動療法だけでは十分ではありません。

 

 

糖尿病の薬物療法は、その作用から大きく分けて3つに分類することができます。

  1. インスリンを出しやすくする薬:膵臓に働きかけ、インスリンの分泌を促進します
  2. インスリンの効きを良くする薬:インスリンの効きを良くし、インスリン抵抗性を改善させます
  3. 糖の吸収や代謝、排泄を調整する薬:糖の吸収をゆっくりにして血糖値の急上昇を抑える、または取り込んだ糖を体外に排出させます

 

これに加え、膵臓から必要なインスリンを十分出せない場合は、インスリン製剤で外から補う必要があります。ただし、どんな薬にも副作用はつきもので、低血糖や体重増加、下痢、便秘、嘔吐などの消化器症状などが生じることがあります。

糖尿病のメカニズムでお話ししたように、糖尿病の根本的な原因は食後の高血糖とそれに伴う内臓脂肪の蓄積による全身の炎症なので、どんなにインスリンの量や効きを高めてもそれらは一時しのぎの対症療法でしかないと言えます。また、これらの薬物療法だけでは根本原因への対応がゼロであるため、薬をやめたとたんに血糖値が高くなり症状が再発してしまいます。つまり、食生活を適切なものに変えたり、運動したりすることで内臓脂肪が減少しない限り、炎症は持続し、いずれ膵臓が疲弊し、インスリンが分泌できなくなってしまうのです。

 

食べものは副作用のない一番の根本治療

私の栄養外来では次のような食べ方を指導しています。

まず、必ず患者さんが毎日何を食べているのか食事日記をつけていただきます。そこで足りない栄養素がないか、バランスに偏りがないかをチェックします。

そして食べ方はゾーンダイエットをもとに、それを分かりやすく説明するために手を使った方法をお伝えします。まず血糖値の急上昇を防ぐために両手のひらいっぱいの野菜(サラダ、スープ、味噌汁など)を食べます。次に手のひら一つ分のタンパク質、そして最後にグーのサイズの主食となる米やパンなどを食べます。

 

 

いきなりすべてを完璧にやるのは難しいので、まずはこの食べ方に慣れていただき、慣れてきたら次に抗酸化力の高い色の濃い緑黄色野菜を選び、鉄分や亜鉛、クロムなどインスリンの分泌に必要なミネラルを多く含むタンパク質、血糖値の急上昇を防ぐ低GIの穀物や果物を選ぶように食品リストを渡します。また、炎症を抑えるオメガ3脂肪酸を多く含む脂質についてもお伝えします。

基本的にこれだけです。とてもシンプルで外来でお伝えした後すぐに実践することができます。シンプルですが効き目は一目瞭然。ちゃんと実践したかどうかは次の外来ではっきり分かります。なお、この食事法はgeefeeが推奨している食事法と大きくは変わりがありませんので、詳しいやり方などはこちらの記事を参考にしてください。

この食事法だけで身体がどう変化したかを実際の臨床データを使って示します。

 

42歳男性 脂肪肝、高LDLコレステロール血症、内臓脂肪型肥満

  約1カ月後
体重 84.5kg 72.5kg
腹囲 94cm 84.5cm
LDLコレステロール 160mg/dl 128mg/dl
中性脂肪 138mg/dl 81mg/dl
空腹時血糖値     101mg/dl 96mg/dl

 

治療前

 

治療後

 

 

体重が1カ月ほどで12kg減少し、それに伴い内臓脂肪が減り、腹囲が9.5cm減少しました。内臓脂肪が減少したことで脂質の代謝が改善し、LDLコレステロールや中性脂肪も減少しています。正常高値であった空腹時血糖値も改善しています。また、超音波検査でも脂肪肝の改善を認めました。この方はまだ糖尿病発症していないため短期間でこのような変化が見られましたが、糖尿病の患者さんであってもこの食べ方を続けることでHbA1cの改善を得られることは十分可能であり、多くの患者さんでこれと似たような効果を見てきています。ただし、インスリンの分泌能力が著しく低下している場合やインスリン注射をしている方が自己判断で食事療法を開始することは大変危険です。主治医の先生に相談しながら薬物療法を併用することをお勧めします。

 

今は健康な人でも糖尿病予防のためにできること

毎年の健康診断で、まだ治療は必要ではないが、基準値を超えているいわゆるB判定の方が多くいらっしゃいます。その方々は栄養指導を1回受けるだけで基本的に医療の介入はなされず、本人の健康意識が低い場合はそのまま放置され、いつか基準値を超えるのを待つだけの状態となっています。しかし、B判定の人こそ、日々の食事を見直すことで簡単に元の健康な体を取り戻し、それを維持することができるのです。基準値を超えるまでは何もしなくてよい、というのではないのです。みんながもっと自分自身の体の仕組みや状態を把握し、自分で健康を維持することが予防には一番大切であると私は考えています。

巷に氾濫する健康情報で「〇〇は健康に良い」とされる食材などを足す前に、ご自身の食生活を振り返り、多く摂りすぎているものはないか、不足している栄養素はないか、を見直すことから始めてみてください。自分を知ることで根本的な対処の方法も自然と見えてきます。西洋医学は、身体の状態を数値化し診断すること、また変化を可視化することには優れていますので、日頃の生活習慣の改善が定期健診などの数値にどのような変化をもたらすかを判断することができます。こうして自分の身体を自分で守っていきましょう。

 

著者プロフィール

-関由佳(内科医、味噌ソムリエ、野菜ソムリエ、メディカルフード研究家)-

専門は予防医学、栄養療法。学生時代から予防医学に興味があり、野菜を多く使った料理を得意とし野菜ソムリエの資格を取得。同時期にアメリカのZONEダイエットに出会い、食事で血糖値をコントロールする方法を学び、ダイエット外来や糖尿病治療にそのメソッドを応用しオーダーメイドの栄養指導や「ゆるゆる糖質オフダイエット」(主婦の友社)を出版。2013年にNYの料理専門学校に留学しChef’s Trainingディプロマ取得、その後約半年間ミシュラン星つきレストランや精進料理店などでインターン後帰国。現在は岡山大学大学院で腸内環境と発酵豆の研究をしながら、オンライン栄養カウンセリングの21days 体質改善チャレンジプログラムの監修医師を担当している。NYで味噌の魅力を再発見し味噌ソムリエ取得、メディカルフード料理研究家としても活動している。近著は「 みるみる痩せる!味噌汁ダイエット」(宝島社)

NYの料理学校でアーユルヴェーダに触れ、帰国後Traditional Ayurveda Japanにてファンダメンタルコース修了。南インドのアーユルヴェーダ治療院を訪れ、本場のアーユルヴェーダを学ぶ。

ブログ「Food Dr.YUKAのメディカルフードラボ

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