睡眠の重要性
睡眠中に分泌される成長ホルモンは代謝にも重要!
ヒトが眠っている間には、様々なホルモンが分泌されます。ノンレム睡眠中には、特に深い睡眠状態である3-4段階において、成長ホルモンが活発に分泌されることが知られています[#]田ヶ谷浩邦, 2008. 睡眠関連ホルモンの計測. 生体医工学, 46(2), pp.169–176. 。成長ホルモンはその名の通り、骨や筋肉の成長を促すため、成長期に重要なのは言うまでもありませんが、実は体内の糖や脂肪、蛋白質の代謝にも大きく関わっている重要なホルモンでもあります[#]Møller, N. & Jørgensen, J.O.L., 2009. Effects of Growth Hormone on Glucose, Lipid, and Protein Metabolism in Human Subjects. Endocrine reviews, 30(2), pp.152–177. 。そのため、肌の新陳代謝にも影響しており、「睡眠不足は美容の大敵」といわれる理由は、睡眠不足(特にノンレム睡眠の3-4段階)によりこの成長ホルモンをはじめとするホルモン分泌や自律神経に乱れが起こり、ダメージを受けたまま修復ができないところにあります。成長ホルモンが多く分泌されるノンレム睡眠の3-4段階は、睡眠の前半に出現します[#]田ヶ谷浩邦, 2008. 睡眠関連ホルモンの計測. 生体医工学, 46(2), pp.169–176. 。
記憶の整理と定着が行われ、パフォーマンス向上!
さらに、寝ている間には脳の記憶の整理と定着が行われます。これはノンレム、レム睡眠どちらの段階でも行われることが分かっていますが、それぞれの睡眠のステージは異なるタイプの記憶の整理・定着に関与していると考えられています。ノンレム睡眠中には特に人生における過去のエピソードのような、語ることができるような記憶(宣言的記憶)を整理・定着していると考えられています。一方、レム睡眠中にはスポーツの動作や楽器演奏、知人の顔の認識等、経験や練習を必要とする記憶(非宣言的記憶)の整理と定着が行われていると考えられています。
記憶の整理と定着に関しては、興味深い様々な研究が報告されています。
ある研究では、朝に視覚的なタスクに取り組んでもらい、10時間後の夜7時にテストを行うと、間に90分の仮眠を挟んだグループのほうが成績が良く、さらに仮眠をとった場合でも、ノンレム睡眠のみの眠りだった人とノンレム睡眠とレム睡眠の両方が見られた人とでは、両方の睡眠パターンの眠りにつけた人のほうが成績が良いという結果が報告されています[#]Mednick, S., Nakayama, K. & Stickgold, R., 2003. Sleep-dependent learning: a nap is as good as a night. Nature neuroscience, 6(7), pp.697–698. 。レム睡眠をとることができた人は視覚的なタスクをよりうまくこなせたことからも、レム睡眠が経験や練習を必要とする記憶に関わっていることがわかります。
また、別の研究結果では、単語を覚える課題と図形を描く課題を練習してもらい、ノンレム睡眠のみの1時間の仮眠をとってしばらく後にテストをするとどのような成績の変化が出るかを調べています。その結果、ずっと起きていたグループよりも仮眠をとったグループのほうが単語を覚える課題では成績の向上が見られましたが、図形を描く課題の成績はずっと起きていたグループと仮眠をとったグループでは差がないことがわかりました[#]Tucker, M. et al., 2006. A daytime nap containing solely non-REM sleep enhances declarative but not procedural memory. Neurobiology of learning and memory, 86(2), pp.241–247. 。つまり、ノンレム睡眠は言葉の記憶の定着に重要であることがわかります。
睡眠不足になれば、これらの記憶の整理や定着がうまく行われず、仕事であれば同じミスを何回も繰り返したり、作業が覚えられなかったりと日々のパフォーマンスが向上しづらくなります。また、認知能力や反応能力、集中力も低下し、何かに対処しなければいけないのに適切な判断ができない、何が起こっているかとっさに理解できない、という状態にも陥りやすくなるでしょう。仕事や学業、日々の生活にとって睡眠不足が及ぼす影響は決して小さくないのです。
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