最近、『座ってばかりいると寿命が縮まる』ということがメディアで取り上げられています。『座ることは喫煙と同じ』という刺激的な言葉もアメリカではよく聞きます。実は、世界的にみて日本人は座る時間が特に長い国民で、ある統計によれば、先進20か国の中で、サウジアラビアと並んで最も座位時間の長く、平均一日7時間座っているのだそうです[#]Bauman A, Ainsworth BE, Sallis JF, Hagströmer M, Craig CL, Bull FC, IPS Group. The descriptive epidemiology of sitting: a 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). American journal of preventive medicine. 2011; 41(2): 228-235. 。家でテレビを見ている時間や食事の時間まで含めると、実際にはこれよりずっと多いのでは、とも思えてきます。そこで今回は、座り過ぎずに毎日を過ごす方法について考えてみましょう。
座り過ぎることでどのようなリスクが起きる?
- 心臓病、糖尿病などの発症リスクを高める
研究によると、運動以外の身体活動が健康的な血糖値の維持に重要であることが示され[#]Ekblom-Bak E, Ekblom B, Vikström M, de Faire U, Hellénius ML. The importance of non-exercise physical activity for cardiovascular health and longevity. British Journal of Sports Medicine. 2014; 48(3): 233-238. 、また、座り過ぎが心臓病、糖尿病などの発症リスクを高めることが指摘されています[#]Warren TY, Barry V, Hooker SP, Sui X, Church TS, Blair SN. Sedentary behaviors increase risk of cardiovascular disease mortality in men. Medicine and science in sports and exercise. 2010; 42(5): 879–885. [#]Hamburg NM, McMackin CJ, Huang AL, Shenouda SM, Widlansky ME, Schulz E, Vita JA. Physical inactivity rapidly induces insulin resistance and microvascular dysfunction in healthy volunteers. Arteriosclerosis, thrombosis, and vascular biology. 2007; 27(12): 2650-2656. 。座ってばかりいると血液およびリンパ液の流れも鈍くなり、またどうしても猫背になりやすくなり、首、肩、腰などを痛めたりします[#]Ratchford EV, Evans NS. Approach to lower extremity edema. Current treatment options in cardiovascular medicine. 2017; 19(3): 16. [#]Falla D, Jull G, Russell T, Vicenzino B. Hodges P. Effect of neck exercise on sitting posture in patients with chronic neck pain. Physical therapy. 2007; 87(4): 408-417. [#]Hallman DM, Gupta N, Mathiassen SE, Holtermann A. Association between objectively measured sitting time and neck–shoulder pain among blue-collar workers. International archives of occupational and environmental health. 2015; 88(8): 1031-1042. [#]Van Deursen LL, Patijn J, Durinck JR, Brouwer R, van Erven-Sommers JR, Vortman BJ. Sitting and low back pain: the positive effect of rotatory dynamic stimuli during prolonged sitting. European Spine Journal. 1999); 8(3): 187-193. 。
- 体重増加につながる
立って歩いて座ってキョロキョロして等の生活内での一連の動きは非運動活動熱発生(NEAT)と呼ばれ、自然とカロリーを消費するのですが、このNEATの欠如は体重増加の危険因子となるのです[#]Villablanca PA, Alegria JR, Mookadam F, Holmes Jr. DR, Wright RS, Levine JA. Nonexercise activity thermogenesis in obesity management. In Mayo Clinic Proceedings. 2015; 90(4): 509-519. 。また、研究では、農業に従事している人とデスクワークをしている人では、前者が1日に最大1000カロリー多く消費し、肥満の人達は痩せている人達よりも毎日2時間長く座っているというデータも示されており、肥満と座り過ぎの関連性も指摘されています[#]Levine JA. Lethal sitting: homo sedentarius seeks answers. American Physiological Society. 2014; 300-301. [#]Levine JA, Lanningham-Foster LM, McCrady SK, Krizan AC, Olson LR, Kane PH, Clark MM. Interindividual variation in posture allocation: possible role in human obesity. Science. 2005; 307(5709): 584-586. 。
- メンタルヘルスにも影響
日本で近年問題となっている勤労者のメンタルヘルス。平成29年度(平成26年から変更)には、労災請求件数および支給件数が過去最多となっています[#]厚生労働省. 平成29年度「過労死等の労災補償状況」精神障害に関する事案の労災補償状況. [Internet]. [cited 5th March 2019]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/H29_no2.pdf 。
2016年に発表された研究結果によると、日本人男性勤労者において、1日の座位時間が6時間未満の研究対象群に比べ、12時間以上の群ではメンタルヘルス不良が2倍以上になったと報告されています[#]甲斐裕子, 角田憲治, 永松俊哉, 朽木勤, 内田賢. 日本人勤労者における座位行動とメンタルヘルスの関連. 体力研究. 2016; 114: 1-10. 。
長時間立ちっぱなしがいいというわけでもない
逆に立ち過ぎはどうでしょうか?オフィスワーク以外ですと、仕事中は常に立ちっぱなしという職種もたくさんあります。この長時間の立ち仕事も実は、健康と深い関係があります。2017年に発表された研究では、長時間の立ち仕事をしている人は、座り仕事をしている人に比べ、2倍の割合で心臓病を発症するとの調査結果が報告されています[#]Smith P, Ma H, Glazier RH, Gilbert-Ouimet M, Mustard C. The relationship between occupational standing and sitting and incident heart disease over a 12-year period in Ontario, Canada. American journal of epidemiology. 2017; 187(1), 27-33. 。また、立ちっぱなしで筋肉を一定の位置で維持することで、腰や下半身に大きな負担や圧力がかかり、腰や足、足首などを痛める原因となります[#]Waters TR, Dick RB. Evidence of health risks associated with prolonged standing at work and intervention effectiveness. Rehabilitation Nursing. 2015; 40(3): 148-165. 。
座りっぱなしを減らすためにはどうすればよい?
立ちっぱなしもよくない、とはいえ、日本人の場合圧倒的に座りすぎの人が多いという前提で、そのための対策を考えてみたいと思います。
座りっぱなしの職種において、座る時間を減らすのはなかなか現実的に難しいことにも思えますよね。そこで、みなさんがすぐに実践できるようなアイデアをいくつかご紹介したいと思います。
1. 通勤電車はできるだけ立って
電車に乗ったらまず席を確保、席が空いていなかったらどの席が空くか常にチラ見。そんな電車内での行動に身に覚えがある人も多いのでは?そもそも、席を取るために他人と競争すること自体がストレスを発生させます。結局座れないとイライラ。それよりも、開き直って立っていれば良いのです。席を確保しなくてよい、という意識に切り替わると、とたんに気分に余裕が生まれます。席取りに躍起になっている人たちが気の毒にすら思えてきます。また、立って体が電車に揺られる事で、筋肉と脳神経、自律神経を活発にし、午前中から効率よく仕事ができることが期待できます。ただ、本当に疲れていたり、体調不良の場合は無理をしないように!
2. スタンディングデスクを導入
欧米で人気爆発中のスタンディングデスク。つまり、立っても座っても仕事ができるように上下に伸縮する机やパソコン台。スタンディングデスクを用いた実験では、一日66分の座位時間の減少と共に実験前より背中や首の痛みが平均54%減少し、職場での気分の改善が報告されています[#]Pronk NP, Katz AS, Lowry M, Payfer JR. Peer reviewed: reducing occupational sitting time and improving worker health: the take-a-stand project, 2011. Preventing chronic disease. 2012; 9: E154. 。最近日本でも普及され始めていますが、日本の大部屋式のオフィス環境では人目もあるので最初は難しいかもしれませんし、保守的なオフィスカルチャーの場合は特に困難でしょう。しかし、世界的な潮流から考えると、スタンディングデスクが通常の机を凌駕することは時間の問題と思われます。喫煙もつい20年ほど前までは多くのオフィスで当たり前でしたが、今では禁煙でないオフィスがほとんどないですよね。企業側としても、従業員側に健康でハッピーでいてもらうことは生産性にとって重要なことで、今後日本でもスタンディングデスクを導入する企業が増えると予想されます。ですから、みなさんも職場でのスタンディングデスク使用第一号を目指されては?
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3. 仕事中に立ったり歩いたりする時間を増やす工夫をする
さすがにまだ自分の職場ではスタンディングデスクは無理、という方も多いでしょう。そういう人は仕事中に座ったり立ったり軽くストレッチしたりを定期的に繰り返すことをお勧めします。コーネル大学設計環境分析学科の教授のアランヘッジ氏によると、20分以上1つの位置に座ったり、8分以上1つの位置に立ったりしないことが最善なのだそうです[#]Alan H. Ergonomic Workplace Design for Health, Wellness, and Productivity. Boca Raton: CRC Press; 2016. 。
忘れないようにタイマーとかアラームとかを駆使するのもよいでしょう。また、休憩時間には座らずに散歩をするのも良いでしょうし、昼食も社食ではなく少し歩いて外食とかも。また、ビル内の階の移動も極力階段を使うというのもとてもお勧めです。
4. 椅子を変える
通常の椅子よりも姿勢をよく保てるようにデザインされた椅子を使うこともできます。座り過ぎの弊害のうち、その一部の対策にしかなりませんが、何も変えないよりも良いですし、腰痛などの弊害には効果的かもしれません。特にニーリングチェアーは、通常の椅子より姿勢がまっすぐに保たれ腰骨の反りを軽減するため腰に優しく、すぐに立ち上がれる体勢なので、立ち座りが楽にできます[#]Vaucher M, Isner-Horobeti ME, Demattei C, Alonso S, Hérisson C, Kouyoumdjian P, Dupeyron A. Effect of a kneeling chair on lumbar curvature in patients with low back pain and healthy controls: A pilot study. Annals of physical and rehabilitation medicine. 2015; 58(3): 151-156. 。 (腰痛の方にはこのような体操がおススメです!)
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立って食事は健康に良い?悪い?
空前の立食い、立ち飲みブーム。ステーキからお寿司からイタリアンからフレンチまで、立ちながら飲食ができるお店がとても増えてきました。日本の立ち食い文化の起源は江戸時代のお蕎麦。日本では「立ちながら食べるのはお行儀が悪い」と言われながらも、実は立って食事をすることには長い文化的背景があるのですね。3年程前にフィンランド政府が国民に、「食事は立ったまま食べなさい」という推奨をしました。つまり、国をあげて座り過ぎ防止を謳っているのです。ちなみに、フィンランド政府は、一日7時間以上座っている人は、1時間増えるごとに死亡リスクが5%ずつ増加する、とも言っています[#]Ministry of Social affairs and Health, Finland. REDUCE SEDENTARY TIME – GET HEALTHIER! National recommendations to reduce sedentary time. [Internet]. [cited 6th March 2019]. Available from: http://julkaisut.valtioneuvosto.fi/bitstream/handle/10024/74710/STM_Redu... 。このように、健康をキーワードに、今や”立食い”文化は世界にも浸透し始めています。とにかく座り過ぎ防止のためには何でもいいからやってみたい、という方は、このように立ち食いを上手に取り入れることもあり?ただ、職場を歩きながらお弁当を持って食べるというのはやっぱりお行儀悪いかもしれませんね。
座り過ぎ立ち過ぎ、どちらにも言える事ですが、一定の姿勢で長時間作業等をするのはなるべく避け、1日の中でずっと同じ姿勢を保つことを避けるよう心がけましょう。一般的には立ち過ぎよりも座り過ぎの人が多いと思われますので、通勤中や職務中などになるべく立つことを意識してみれば体調アップでお仕事のパフォーマンスも変わってくるでしょう!
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