人間の能力や人格、幸福感に大きな影響を与える脳の健康。「思考を変える」「脳を鍛える」といった脳科学に注目が集まっていますが、記憶力や学習能力の低下、鬱病、気分障害などは脳機能の不具合が主原因。脳細胞の健康があって初めて幸福感や達成感を得ることも可能となります。そして、脳と心の健康の鍵を握るのが、脳神経細胞(ニューロン)の新陳代謝を高め、細胞を活性化するニューロン新生。しかも、人間は何歳になってもニューロン新生が行われる潜在能力を持っているのです。今回は、脳と心のコアを鍛えるニューロン新生についてご案内します。
大人の脳が生まれ変わる。頭と心に効くニューロン新生
ニューロン新生とは脳内で新しく神経細胞が生み出されること。この現象は、従来は胎生期から幼年期など、人生のごく初期にのみ見られるものだと考えられてきました[1]。つまり、幼少期に脳細胞が完成すると、その後、細胞は増えることなくただ死滅していくのみだ、というのが長年の通説だったのです。
この通説をひっくり返したのが、成体のマウスでニューロン新生を確認した1961年の実験[2]。その後、脳の代謝・発達の研究が進み、成体動物の脳内の海馬や脳室下帯(SVZ)でのニューロン新生が徐々に解明されてきました[3]。そして2018年4月、コロンビア大学のモーラ・ボルドリーニ准教授により、「年齢に関係なく人間の大人でもニューロン新生が行われる」とする論文が発表されたのです[4]。