前回、“あなたの頭痛の原因は姿勢にあった!?カラダの対角線に注目!Cross Syndrome(クロスシンドローム)を予防・改善して頭スッキリ!!”で、緊張性頭痛は姿勢を整えることで予防・改善できることをご紹介しました。
このクロスシンドローム、下半身にも見られます。Lower Cross Syndrome(ローワー・クロスシンドローム:下部交差性症候群)と呼ばれる姿勢の崩れが、またしても皆さんの生活の質を奪う症状をもたらしてしまうのです。今回もその予防・改善方法をシェアしていきます!
Cross Syndrome(クロスシンドローム:交差性症候群)を軽く復習しよう
前回も説明させていただきましたが、クロスシンドロームとは、チェコ共和国の神経学者・リハビリテーション医、ウラディミール・ヤンダ氏によって提唱された、姿勢の崩れとその原因となりそうな筋肉の短縮や筋力低下を症候群としてまとめた概念です[#]Page P, Frank CC, Lardner R. Assessment and treatment of muscle imbalance: the Janda approach. Leeds: Human Kinetics; 2010. 。正しい姿勢ももう一度おさらいしておきましょう。正常に立った姿勢を横から見ると、耳たぶ・肩の上にある骨が出ている部分・股関節の骨が出ている部分・膝のお皿の後ろ・外くるぶしのすぐ前が垂直線上に並びます[#]Kendall FP. Muscles: testing and function with posture and pain. The 5th ed. Baltimore: Lippincott Williams & Wilkins; 2005. 。
上半身の姿勢の崩れ、Upper Cross Syndrome(アッパー・クロスシンドローム:上部交差性症候群)は、以前に“あなたの頭痛の原因は姿勢にあった!?カラダの対角線に注目!Cross Syndrome(クロスシンドローム)を予防・改善して頭スッキリ!!”でご紹介いたしました。Lower Cross Syndrome(ローワー・クロスシンドローム:下部交差性症候群)では、姿勢にどのような変化が起きてしまっているのでしょうか。
Lower Cross Syndrome(ローワー・クロスシンドローム:下部交差性症候群)とは?
Lower Cross Syndromeは、下半身の筋力や筋肉の柔軟性のバランスの乱れによって生じる異常な姿勢のことです。上半身同様、縮んでしまっている/過剰に収縮している筋肉、伸びてしまっている/弱くなっている筋肉が特定されています[#]Janda V, Frank C, Liebenson C. Evaluation of muscular imbalance. Rehabilitation of the spine: a practitioner's manual. Philadelphia, PA: Lippincott Williams & Wilkins; 1996. [#]赤坂清和 マッスルインバランスに対する評価と理学療法. 理学療法科学. 2007; 22(3): 311-317. 。該当する筋肉には諸説ありますので、上記の図に書かれていない筋肉も含め、下記の筋肉が関与しているといわれています。
縮んでしまっている/過剰に収縮している筋肉:
・腰の筋肉(脊柱起立筋:左上)
・股関節の前の筋肉(腸腰筋:右下)
・股関節の内側の筋肉(長内転筋:右下)
・太ももの前の筋肉(大腿四頭筋:右下)
・太ももの外側の筋肉(外側広筋:右下)
伸びてしまっている/弱くなっている筋肉:
・腹筋(深いところにある内腹斜筋や腹横筋:右上)
・お尻の筋肉(大臀筋・中臀筋・小臀筋:左下)
Lower Cross Syndromeも横から姿勢を見ると、伸びてしまっている/弱くなっている筋肉、縮んでしまっている/過剰に収縮している筋肉共に、対角線上で対応しているのが分かると思います。さぁ、この姿勢ってどんな姿勢でしょうか??
その通り!!腰がギュッと反って、下っ腹がポッコリ出てしまった姿勢です。
この反り腰、腹筋が弱い方や長時間の座った姿勢をとることが多い方によく見られます。腹筋には骨盤を立てる作用があります。したがって、腹筋が弱ってくると次第に骨盤が前に倒れてしまいます[#]Levine D, Walker JR, Tillman LJ. The effect of abdominal muscle strengthening on pelvic tilt and lumbar lordosis. Physiotherapy theory and practice. 1997; 13(3): 217-226. 。また、長時間の座った姿勢を日々続けていると、股関節や太ももの前の筋肉が徐々に縮み、骨盤を前に引っ張ってしまいます[#]Lee JH, Yoo WG. The mechanical effect of anterior pelvic tilt taping on slump sitting by seated workers. Industrial Health. 2011; 49(4): 403-409. [#]Karen D, Green DS, Jensen GM, Savinar E. A comparison of muscular tightness in runners and nonrunners and the relation of muscular tightness to low back pain in runners. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 1985; 6(6): 315-323. 。原因は違いますが、両者とも骨盤を前に倒してしまうのです。この時、体が前に倒れまいと背骨の付け根部分を反らせて上半身を起こします [#]Karen D, Green DS, Jensen GM, Savinar E. A comparison of muscular tightness in runners and nonrunners and the relation of muscular tightness to low back pain in runners. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 1985; 6(6): 315-323. 。
この姿勢を長時間続けると・・・次第に腰(背骨の付け根あたり)は悲鳴を上げてしまうのです。腰痛持ちの方は世の中とっても多いですが、背中の下部の腰痛の原因の多くがこのパターン。つまり、身体の他の部分の姿勢の崩れが腰痛の原因だったのですね! 見た目も、下腹部ポッコリは男女ともに格好のいいものではありません。骨格の健康のためにも美容のためにも、次のセクションでその予防・改善方法を一緒に見ていきましょう!
姿勢改善ストレッチ&エクササイズ
今回は、ストレッチと簡単な筋力トレーニングをご紹介します。
(1)腰の筋肉のストレッチ(30秒)
腰から始まる背中の筋肉、脊柱起立筋のストレッチを行います[#]尾崎 純, 島谷丈夫, 脇元幸一, 内田繕博. リラクセーションと理学療法. 理学療法. 2011; 28(8) 985-992. 。まず、仰向けに寝た状態で両膝を胸に引き寄せます。股関節を大きく曲げて腰の周りにある筋肉をゆっくりと引き伸ばしていきます。
(2)四股(しこ)捻転(左右20秒)
メインは股関節の前と内側にそれぞれある腸腰筋と長内転筋のストレッチですが、股関節を柔らかくする運動としてご紹介します。力士のように股を開いて腰を落とした姿勢をとり、両手を両膝の上に置きます。その姿勢から肩を入れるように上半身をひねります[#]尾崎 純, 島谷丈夫, 脇元幸一, 内田繕博. リラクセーションと理学療法. 理学療法. 2011; 28(8) 985-992. 。顔が向いている方とは反対の股関節に伸ばされる感覚があれば、そこで姿勢をキープしましょう。
(3)股関節の前の筋肉のストレッチ(左右20秒)
腸腰筋と呼ばれる骨盤や股関節の奥にある筋肉をストレッチします。コアマッスルとならんで、最近注目されている筋肉です。まず、片膝立ちの姿勢をとります。そこから骨盤の姿勢を水平に保ちながら前方に移動させていきます。このとき膝をつけている側の股関節の前に伸ばされる感覚があれば、そこで姿勢をキープしましょう。過剰に腰や背中を反る運動ではありません。身体の後ろはできるだけまっすぐキープしましょう。
(4)太ももの前の筋肉のストレッチ(左右20秒)
大腿四頭筋のストレッチを行います。まずは腸腰筋のストレッチと同様に片膝立ちの姿勢をとります。今回は、膝をつけている側の足をつかんで太ももの裏に近づけましょう。太ももの前に伸ばされている感覚があれば、そこで姿勢をキープしましょう。
(5)ペルビックティルトエクササイズ(1分2回)
ペルビックティルトとは、ペルビック(Pelvic:骨盤)のティルト(Tilt:傾き)を意味します。この運動で腹筋とお尻の筋肉を同時に鍛えることができます[#]McKenzie RA. The Lumbar Spine: Mechanical Diagnosis and Therapy. Auckland, New Zealand: Spinal Publications; 1981. [#]Singer KP. A new musculoskeletal assessment in a student population. The Journal of orthopaedic and sports physical therapy. 1986; 8: 34-41. 。まず仰向けに寝て、両膝を曲げます。ここからが少し難しいのですが、ものを潰すように腰を床に押し付けて骨盤だけを浮かせてみましょう。このとき腹筋とお尻の筋肉が同時に働いています。また、息を吐きながら肛門をキュッとしめるような力を入れつつ行なうことで、コアマッスルへトレーニング効果を高めることができます。
緊張性頭痛の原因となるUpper Cross Syndrome(アッパークロスシンドローム:上部交差性症候群)に続き、今回は腰痛をもたらすLower Cross Syndrome(ローワークロスシンドローム:下部交差性症候群) の予防・改善方法をご紹介しました。痛いところだけが原因にあらず。その周辺や離れた部位にも目を向けて、姿勢を整えることで健康的な生活を取り戻してみませんか? ぜひお試しください!
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著者プロフィール |
岡本 広満(おかもと ひろみつ)
理学療法士として7年間勤務した後、2016年より英国大学院へ留学、理学療法修士課程を修了。現在は整形外科病院に勤務しながら、理学療法に関する海外文献の翻訳や健康、美に関わる記事を執筆中。
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