この記事を読まれている方のなかにも、“頭痛持ち”の方がいらっしゃるのではないでしょうか? 「楽しい時間や“ここぞ!”というときの集中力が台無し…」「どうにかしたいこの原因の分からない頭痛…」と悩んでいる方がいらっしゃるかもしれません。
“緊張性頭痛”という言葉をご存知でしょうか? 原因がなく起こる頭痛(専門的には一次性頭痛)は、正確には片頭痛(偏頭痛)と緊張性頭痛に分けられています[#]吉村政樹, 高見俊宏, 田上雄大, 鶴田慎, 一ノ瀬努 and 鶴野卓史. 緊張型頭痛患者における頚部圧痛点と頚椎 X 線による頚部筋骨格系評価. 脊髄外科. 2017; 31(1): 96-98. 。日本で緊張性頭痛を持つ人の割合は約20%(片頭痛は10%以下)、研究にもよりますが、“慢性頭痛”と呼ばれる頭痛の最大70~80%を占めているそうです[#]Mueller L. Tension-type, the forgotten headache: how to recognize this common but undertreated condition. Postgraduate medicine. 2002; 111(4): 25-50. 。
頭痛対策で仕方なく鎮痛剤を恒常的に飲んでいる方も多くいらっしゃるのでは? もし、この頭痛が姿勢を直すことで解消できるなら…。今回はそんな緊張性頭痛の原因と予防・改善方法をシェアします!
緊張性頭痛とその発生メカニズム
緊張性頭痛では、おでこや後頭部で圧迫されるような、締めつけられるような痛みが一般的です。痛みは軽度から中等度、日常での活動や運動によって悪化することは特にないとされています[#]Bendtsen L, Ashina S, Moore A, Steiner TJ. Muscles and their role in episodic tension‐type headache: implications for treatment. European Journal of Pain. 2016; 20(2): 166-175. 。では、どのようにして生じるのでしょうか? 諸説ありますが、代表的なメカニズムを一緒に学びましょう。
頭や首まわりの筋肉の過剰な収縮は、その周辺に血流の減少(虚血状態)をもたらします[#]Fernandez-de-Las-Penas C, Alonso-Blanco C, Cuadrado ML, Pareja JA. Forward head posture and neck mobility in chronic tension-type headache: a blinded, controlled study. Cephalalgia. 2006; 26(3): 314-319. 。このとき、血液と一緒に流れている物質であるプロスタグランジンやブラジキニンがとどまってしまいます。それらの物質が筋肉内の痛みを伝える神経の末端(侵害受容器)を刺激してしまうことで痛みが生じると考えられています[#]Zwart JA. Neck mobility in different headache disorders. Headache: The Journal of Head and Face Pain. 1997; 37(1): 6-11. [#]国際頭痛分類. 第3版 beta 版 日本語版. 東京: 医学書院; 2014 [#]Mense S and Meyer H. Different types of slowly conducting afferent units in cat skeletal muscle and tendon. The Journal of Physiology. 1985; 363(1): 403-417. [#]Mense S. Nociception from skeletal muscle in relation to clinical muscle pain. Pain. 1993; 54(3): 241-289. 。頭や首の筋肉や筋肉を覆っている“筋膜”が凝り固まることでも虚血状態が引き起こされ、頭痛が生じます。また、神経が、硬くなった筋肉に直接圧迫されることも頭痛が発生するメカニズムの1つと考えられています[#]Lyngberg AC, Rasmussen BK, Jorgensen T, Jensen R. Prognosis of migraine and tension-type headache: A population-based follow-up study. Neurology. 2005; 65: 580–585. 。
実は、この緊張性頭痛をもたらす姿勢の特徴が明らかにされています。その姿勢について話を進めましょう!
上半身の姿勢の崩れが頭痛を引き起こす!?
以前の記事「楽して太らず美しい “魅せバスト” を手に入れよう!魅せ胸(みせむね)ストレッチ&エクササイズ」で、長時間のパソコン使用による姿勢の崩れを下の風刺画と共に紹介したのを覚えていらっしゃいますか?
現代人の姿勢…普段の生活の中でも見覚えのある方が多いのではないでしょうか。猫 背と前に突き出た首そしてあご、まさにこれが緊張性頭痛をもたらす姿勢なんです。この姿勢、“forward head posture (フォワードヘッドポスチャー)”と呼ばれています[#]Mense S, Stahnke M. Responses in muscle afferent fibres of slow conduction velocity to contractions and ischaemia in the cat. The Journal of Physiology. 1983; 342: 383-397. 。緊張性頭痛を持つ人は持たない人に比べ、頭と首がより前に出ている傾向にあることが明らかになっています[#]Mense S, Stahnke M. Responses in muscle afferent fibres of slow conduction velocity to contractions and ischaemia in the cat. The Journal of Physiology. 1983; 342: 383-397. [#]Lipchik GL, Holroyd KA, O’Donnell FJ, Cordingley GE, Waller S, Labus J, Davis MK, French D J. Exteroceptive suppression periods and pericranial muscle tenderness in chronic tension-type headache: Effects of psychopathology, chronicity and disability. Cephalalgia. 2000; 20: 638-646. 。
下のように、後頭部と首の後ろの奥にある筋肉(後頭下筋群: 大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋)のさらに奥から大後頭神経・小後頭神経という神経が出ており、後頭部を上に走っています[#]Page P, Frank CC, Lardner R. Assessment and treatment of muscle imbalance: the Janda approach. Leeds: Human Kinetics; 2010. 。首とあごが突き出た姿勢では、後頭部と首の付け根にある後頭下筋群がいつも収縮した状態になります。そして筋肉は徐々に柔軟性を失い、短く・硬くなってしまいます[#]Moore, M. K. (2004). Upper crossed syndrome and its relationship to cervicogenic headache. Journal of manipulative and physiological therapeutics, 27(6), 414-420. 。結果として血流が悪くなったり、その下にある神経が圧迫されたりすることで、その異常が頭痛として現れてしまうのです。
このforward head postureを含め、姿勢の崩れとその原因となりそうな筋肉の短縮や筋力低下を症候群としてまとめた概念があります。この“Cross Syndrome(クロスシンドローム/交差性症候群)”について少し触れてみましょう。
Cross Syndrome (クロスシンドローム: 交差性症候群)って何?
Cross Syndrome (クロスシンドローム: 交差性症候群)とは、チェコ共和国の“リハビリテーションの父”と呼ばれている神経学者・リハビリテーション医、ウラディミール・ヤンダ氏によって提唱された概念です。正しい姿勢とは、下の図のように垂直線の上に各ポイントが真っ直ぐに重なっている状態をいいます(各身体のポイントは、耳たぶ・肩の上にある骨が出ている部分・股関節の骨が出ている部分・外くるぶしのすぐ前を表しています)[#]Kendall FP. Muscles: testing and function with posture and pain. The 5th ed. Baltimore: Lippincott Williams & Wilkins; 2005. 。
しかしながら、筋力や筋肉の柔軟性のバランスの乱れによって姿勢に崩れが生じます。それが上半身・下半身のどちらで発生するかで、それぞれUpper もしくはLower Cross Syndrome (アッパーもしくはローワークロスシンドローム: 上もしくは下交差性症候群) と呼ばれています[#]Standring S. Grey's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. The 40th ed. Edinburgh: Churchill Livingstone; 2008. [#]Fernández‐de‐las‐Peñas C, Alonso‐Blanco C, Cuadrado ML, Gerwin RD, Pareja JA. Myofascial trigger points and their relationship to headache clinical parameters in chronic tension‐type headache. Headache: The Journal of Head and Face Pain. 2006; 46(8): 1264-1272. 。今回の猫背に代表される丸くなった背中と前に出た肩と首、突き出たあごはUpper Cross Syndromeに該当します。このとき、伸びてしまっている/弱くなっている筋肉、縮んでしまっている/過剰に収縮している筋肉が特定されています[#]Standring S. Grey's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. The 40th ed. Edinburgh: Churchill Livingstone; 2008. [#]Fernández‐de‐las‐Peñas C, Alonso‐Blanco C, Cuadrado ML, Gerwin RD, Pareja JA. Myofascial trigger points and their relationship to headache clinical parameters in chronic tension‐type headache. Headache: The Journal of Head and Face Pain. 2006; 46(8): 1264-1272. [#]Yoo WG. Effect of thoracic stretching, thoracic extension exercise and exercises for cervical and scapular posture on thoracic kyphosis angle and upper thoracic pain. Journal of physical therapy science. 2013; 25(11): 1509-1510. 。
縮んでしまっている/過剰に収縮している筋肉:
<前方部> 胸鎖乳突筋、斜角筋、大・小胸筋 <後方部> 僧帽筋上部、肩甲挙筋、後頭下筋群
伸びてしまっている/弱くなっている筋肉:
<前方部> 頸部屈筋群(頭長筋・頸長筋) <後方部> 菱形筋群、僧帽筋下部、前鋸筋
横から筋肉の位置を見ると、伸びてしまっている/弱くなっている筋肉、縮んでしまっている/過剰に収縮している筋肉共に、対角線上で対応しているのが分かると思います。これが“クロス” シンドロームの名前の由来です。次のセクションで、その予防・改善方法を見ていきます。
姿勢改善ストレッチ&エクササイズ
実は“魅せ胸(みせむね)ストレッチ&エクササイズ”で紹介した猫背を改善する方法
胸の前についている筋肉をほぐす・のばす
胸をひらき、肋骨の動きを柔らかくする
胸のきれいな姿勢をキープするための筋肉を活性化する
は緊張性頭痛でも大切な運動になります。首のストレッチ&エクササイズと一緒に再度紹介させていただきます。
1)猫背を改善する(2分)
- 胸の前についている大・小胸筋をほぐす・のばす(1分)
写真のように肘より先をテーブルの上におき、胸の筋肉をリラックスさせます。脇の下に反対の手をいれて大・小胸筋をつかみ、そのままぐるぐると回すようにほぐします。徐々に胸に沿って下に移動します。
次に大・小胸筋のストレッチ(左右30秒)では、写真のように、肘を90度に曲げて壁に前腕を当てた姿勢をとります。次に、首と体を上げた腕とは反対の方向にひねります。
- 胸をひらき、肋骨の動きを柔らかくする(1分)
まずバスタオルをやや厚め・硬めに巻いて床におきます。次にバスタオルが胸の真ん中あたりで胴体と直角に交わるように両膝を曲げた姿勢で仰向けに寝ます。このとき腰はそった姿勢になりますが、痛めないように力を抜いてください。バスタオルの厚さは負担に合わせて調節します。両腕は肘を90度に曲げて両脇に広げます[#]川野哲英. ファンクショナル・エクササイズ: 安全で効果的な運動・動作づくりの入門書. 東京: ブックハウス・エイチディ; 2004. 。フォームローラーなどの道具をお持ちでしたらそちらをご利用ください。
2) 首まわりの筋肉の伸ばす・ほぐす(2分)
- 僧帽筋上部や肩甲挙筋、胸鎖乳突筋、斜角筋を伸ばす(20秒 左右20秒)
まずは首を下に向けることで僧帽筋の上部を含め、首の後ろについている筋肉を伸ばします。
次に首を横に倒すことで、僧帽筋上部や肩甲挙筋、胸鎖乳突筋を伸ばしていきます。
- 後頭下筋群をほぐす(左右30秒)
4つの筋肉からなる後頭下筋群はとても小さな筋肉です、まとめてほぐしていきましょう。まず、指で後頭部の真ん中辺りにある骨の出ている部分を見つけます。
そこから真下に指を3本置いて、軽く上を向き表面の筋肉を緩めます。後頭下筋群は奥にあるので、少し指を押しこみながら耳の後ろにある骨(乳様突起)まで揉みほぐしていきましょう。
3) 胸のきれいな姿勢をキープするための筋肉を活性化する: ウィンギングエクササイズ (1分)
まず体の横で肘を90度に曲げたまま腕を外に開き、両肩を水平に挙げた姿勢をとります。手のひらは外に向けます。
そこから、最初に左右の前腕を顔の前で合わせたあと、両方の肩甲骨の内側を寄せるように最初の位置まで腕を広げます。
その後、肘を伸ばしながら頭上で手の甲を重ねたら、再び開始の時の姿勢に戻ります[#]中村隆一. 基礎運動学. 第6版. 東京: 医歯薬出版株式会社; 1996. 。
このとき胸のきれいな姿勢はキープしながら、3秒で開始の姿勢に戻るようにリズミカルに繰り返します。意外ときつい運動ですので、30秒に分けてもいいと思います。
4) あごが前に出た姿勢を直すための筋肉を活性化する: チンインエクササイズ(2分)
チンインエクササイズでは、首の前についている頭長筋・頚長筋を活性化し、首やあごが前に突き出た姿勢を予防します。まずは、膝を立てた状態で仰向けに寝ます。頭の下にはやや低めのタオルを畳んだようなものを置いてください。
その後、左の写真のようにあごを引くような動きを行ないながら後頭部で枕を押さえつけていきましょう[#]中村隆一. 基礎運動学. 第6版. 東京: 医歯薬出版株式会社; 1996. 。このとき、右の写真のように頭が後ろに反ってあごが上がらないように気をつけてください。10秒ごとに休憩をはさみながら行いましょう。
今回は緊張性頭痛の原因となる、Upper Cross Syndromeを予防・改善するストレッチやエクササイズをご紹介しました。スッキリ爽やかな日々を過ごすためにもトライしてみてはいかがでしょうか? 次回は下半身のクロスシンドローム(Lower Cross Syndrome)を予防・改善して腰の痛みを解消する方法をシェアしますのでお楽しみに!!
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著者プロフィール |
岡本 広満(おかもと ひろみつ)
理学療法士として7年間勤務した後、2016年より英国大学院へ留学、理学療法修士課程を修了。現在は整形外科病院に勤務しながら、理学療法に関する海外文献の翻訳や健康、美に関わる記事を執筆中。
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