感謝とは自分に良くしてくれた人々、自分を支えてくれた人々に対して抱く感情であり、それゆえに感謝することで人間関係は強くなります。また、この世のあらゆる物事に感謝することで、人は幸せを感じることができると言われています。仏教をはじめ世界の多くの宗教でも、感謝の気持ちの大切さが説かれています。この感謝の気持ちの大切さ、とっても非科学的で説教じみた感じがしますが、実は精神と身体の健康に多大な好影響を及ぼすことが科学的に実証されてきているのです。
感謝の気持ちを持つことで具体的にどんな効果がある?
心で感謝を感じている時は、同時に恐怖とか怒りとか不安とかのマイナスの感情を感じることはできないですよね。感謝することで人はストレスに強くなり、気持ちが明るくなり、不安が減り、良く眠れるようになると考えられています[#]Wood AM, Maltby J, Gillett R, Linley PA, Joseph S. The role of gratitude in the development of social support, stress, and depression: Two longitudinal studies. Journal of Research in Personality. 2008; 42(4): 854-871. [#]Wood AM, Joseph S, Lloyd J, Atkins S. Gratitude influences sleep through the mechanism of pre-sleep cognitions. Journal of psychosomatic research. 2009; 66(1): 43-48. 。そして心臓にも良い影響があるということがわかってきました[#]Boehm JK, Vie LL, Kubzansky LD. The promise of well-being interventions for improving health risk behaviors. Current Cardiovascular Risk. 2012; 6(6): 511-519. 。
約200人の心不全患者を対象とした調査では、感謝の気持ちが強い患者は 感謝の気持ちが弱い患者より、気分が良く、よく眠れ、疲労が少なく[#]Mills PJ. Wilson K, Punga MA, Chinh K, Pruitt C, Greenberg B, Chopra D. The Role of Gratitude in Well-being in Asymptomatic Heart Failure Patients. Integrative Medicine: A Clinician's Journal. 2015; 14(1): 51. 、また心不全を悪化させる炎症も少ないことがわかりました。これらの患者の心不全はステージBといわれる段階で、より深刻なステージCに進むと死亡率が5倍に上がることを考えれば、感謝の気持ちを持つことで命が救われたと言っても過言ではないでしょう。
脳と精神衛生の専門家であるドライスワミー博士は言います。
「もし感謝が薬だとしたら、人間のすべての臓器に効く、世界で一番売れる薬となるであろう」と。
感謝すると体内で何が起こる?
科学的研究の結果から感謝の気持ちを持つことによって、様々な体内システムのバランスが取れるということがわかってきました。
- 情動や感情に作用する神経伝達物質(セロトニンとノルアドレナリン)[#]Jenkins TA, Nguyen JC, Polglaze KE, Bertrand PP. Influence of tryptophan and serotonin on mood and cognition with a possible role of the gut-brain axis. Nutrients. 2016; 8(1): 56.
- 生殖ホルモン(テストステロン)[#]Misiak M, Kaczmarek LD, Kashdan TB, Zimny M, Urbański H, Zasiński A, Disabato D. Prenatal exposure to sex hormones predicts gratitude intervention use. Examination of digit ratio, motivational beliefs, and online activities. Personality and Individual Differences. 2015; 77: 68-73.
- 社会結合ホルモン(オキシトシン)[#]Algoe SB, Way BM. Evidence for a role of the oxytocin system, indexed by genetic variation in CD38, in the social bonding effects of expressed gratitude. Social Cognitive and Affective Neuroscience. 2014; 9(12): 1855-1861.
- 認知と快楽に関連する神経伝達物質(ドーパミン)[#]Kringelbach ML, Berridge KC. The neuroscience of happiness and pleasure. social research. 2010; 77(2): 659.
- 抗炎症および免疫力(サイトカイン)[#]Miller GE, Cohen S, Ritchey AK. Chronic psychological stress and the regulation of pro-inflammatory cytokines: a glucocorticoid-resistance model. Health psychology. 2002; 21(6): 531-541.
- ストレスホルモン(コルチゾール)[#]LeClerc M. The effect of gratitude on cortisol reactivity. Manoa Horizons. 2017; 2: 106-116.
- 血圧、心拍数 [#]Kyeong S, Kim J, Kim DJ, Kim HE, Kim JJ. Effects of gratitude meditation on neural network functional connectivity and brain-heart coupling. Scientific reports. 2017; 7(1): 5058.
- 血糖値 [#]Krause N, Emmons RA, Ironson G, Hill PC. General feelings of gratitude, gratitude to god, and hemoglobin A1c: Exploring variations by gender. The Journal of Positive Psychology. 2017; 12(6): 639-650.
これらの神経伝達物質やホルモンがバランスよく働き、そして血圧や血糖値がコントロールされることにより、精神と身体の多くの機能に好影響を与えることが学術研究により次々と明らかになってきているのです。
では実際にどうやって感謝の気持ちを育む?
感謝の念は練習により鍛えることができます。というと筋肉トレーニングみたいですが、実際に毎日感謝することを練習すれば自然な習慣になります。その一つの方法として感謝日記を書くというのがあります。その日に起きたことで感謝の気持ちを想起させたことを書き留めるのです。スマホ用の感謝日記専用アプリのGratitude JournalやA Gratitude Journal & Private Diaryもありますので、これらを活用するのも一案です。
ある研究では、感謝日記を書く人々は、イラ立ちを感じている人々より、よく運動し、医者にかかる回数が少ないことが報告されています[#]Emmons RA, McCullough ME. Counting blessings versus burdens: an experimental investigation of gratitude and subjective well-being in daily life. Journal of personality and social psychology. 2003; 84(2): 377-389. 。毎日感謝日記をつける習慣は、健康増進に大変有効であると専門家が提唱しています[#]Toepfer SM, Cichy K, Peters P. Letters of gratitude: Further evidence for author benefits. Journal of Happiness Studies. 2012; 13(1): 187-201. 。
感謝の気持ちを培うその他の方法
-瞑想、マインドフルネス[#]O'Leary K, Dockray S. The effects of two novel gratitude and mindfulness interventions on well-being. The Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2015; 21(4): 243-245. :毎日日記を書くなど面倒、と思われる方も多いことでしょう。そういう人は、日々の瞑想の際に感謝の気持ちを抱くことも方法の一つです。 瞑想中に、感謝の気持ちを想起させるものにフォーカスします。その日に起きたことで感謝すべきことを思い起こして、感謝の気持ちを心の中でじっくり味わう、という感じ。心を無に近づける通常の瞑想とは別にこれを実践してみては? 心がどんどん穏やかになっていくのがわかるはず。
- 笑顔と抱擁:笑顔と抱擁といった言葉を伴わない行為でも、激励、わくわくする感情、共感、支援などいろいろなメッセージを表現することができます。
- 誠実な言葉:相手の目を見て「ありがとう」と誠実な態度で言うと、感謝の念がしっかりと伝わります。例えば、あなたの両腕がふさがっているときエレベーターのドアを開けてくれた人に、肩越しにお礼を言うのではなく、振り返ってその人の目を見て「ありがとう」と言う、などなど。
- お礼状を書く:贈り物や親切な行為に対してお礼状を書くだけでなく、あなたの大切な人があなたの人生にいてくれることに、感謝の手紙を書く。心の中で思っているだけより、感謝の気持ちを伝えられます。
感謝を忘れない人にこそ幸運が巡ってくる
あなたが健康で幸せになれるかどうかは、あなたが今日何を考えているかに大きく影響されます。一日の始まり、または終わりに、 あなたが感謝している何かについて考えてみませんか。幸せに近道なんてありません。24時間いつも幸せな人なんていません。しかし、幸せな人は、悪いことがあったとしても、人生のちょっとしたことに喜びを見つけることができるのです。自分が人間としてこの世にいること自体がいかに奇跡的なことか、ということだけでも言葉にできないくらいの感謝を感じる。逆境に遭遇したり物事に失敗したとしても、自分の運の悪さを恨むのではなく、そのおかげで心が成長できたことに感謝する気持ちを持つ。客観的・物理的には同じ状況でも、心の持ちようで精神と身体への影響は全く異なります。
また、筆者などは感謝を忘れない人にこそ幸運が巡ってくる仕組みが世の中に組み込まれているようなそんな気さえしています。また、感謝の気持ちは周囲の人を和ませ、貴方の存在によって世の中がほんのちょっとだけ良くなっているような気がしたり。今日からあなたを中心に感謝の輪を世界に広げて行ってみませんか?
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