みなさんが思っている以上にお口の中は細菌がいっぱい。口腔内のケアはどのように行っていますか？
口腔の炎症と認知機能障害との関連性[#]Matthews JC, You Z, Wadley VG, et al. The association between self-reported tooth loss and cognitive function in the REasons for Geographic And Racial Differences in Stroke study: an assessment of potential pathways. J Am Dent Assoc. 2011 Apr;142(4):379-90. 、歯周病が脳卒中のリスクを増加させる可能性[#]Joshipura K, Zevallos JC, Ritchie CS. Strength of evidence relating periodontal disease and atherosclerotic disease. Compend Contin Educ Dent. 2009 Sep;30(7):430-9. 等、ウィルスや細菌が蔓延している口の中を清潔に保つことは、口腔内だけでなく身体全体の健康維持とも密接な関係があります。しかし、ブラッシングや市販のマウスウォッシュ等で簡単に済ませてしまっている人も多いのでは？
「生命の科学」ともいわれるインド・スリランカ伝統医学アーユルヴェーダの健康法、の一つである「オイルプリング」は、口腔内のバクテリアを殺し、口臭を減少させるなど口腔内の健康を保つための歴史ある民間療法です。今回はその「オイルプリング」をみてみましょう。
オイルプリング(油引き)って何？
オイルプリングとはインド・スリランカの伝統的な民間療法。やり方は簡単。マウスウォッシュのようにオイルでクチュクチュと口を15-20分ほど洗い、その後吐き捨てます。使うオイルはココナッツオイルや白ゴマ油等。目的や好みの風味などによって変わってきます。
マウスウォッシュに勝るとも劣らないその効果とは？
有害なバクテリアを減らす
口腔内には300～400種類ものバクテリアがいるといわれています。中でも虫歯菌として有名なミュータンス菌は口腔内の主要な細菌の1つ。食べカスに菌がくっついてできたプラーク(歯垢)を温床として増殖し虫歯をつくります。これらの菌をオイルプリングによって減らすことができるのです。
成人60人を対象としたある研究では、蒸留水で口をすすぐのと比較して、毎日10分間ココナッツオイルでオイルプリングをおこなうと、わずか2週間で唾液中のミュータンス菌の数が22.79％減少することがわかりました[#]Kaushik M, Reddy P, Sharma R, et al. The Effect of Coconut Oil pulling on Streptococcus mutans Count in Saliva in Comparison with Chlorhexidine Mouthwash. J Contemp Dent Pract. 2016 Jan 1;17(1):38-41. 。
子どもを対象とした別の研究では、ココナッツオイル は、標準的なマウスウォッシュと同様に、ミュータンス菌が唾液において1日後で約20％、15日後で約43.6％、30日後で約61.8％減少することが示されました[#]Peedikayil FC, Remy V, John S, et al. Comparison of antibacterial efficacy of coconut oil and chlorhexidine on J Int Soc Prev Community Dent. 2016 Sep-Oct;6(5):447-452. Epub 2016 Oct 24. 。
歯垢と歯肉炎を減らす
口腔内のバクテリアは、歯の表面に歯垢という薄い膜を作ります。歯に歯垢があるのは普通のことですが、毎日ケアをして取り除かないと、口臭、歯肉炎、虫歯、歯周病などさまざまな問題が発生する原因となります。
プラーク誘発性歯肉炎の青年20人を対象とした、ゴマ油でのオイルプリングと一般的なマウスウォッシュの効果の比較研究では、オイルプリングとマウスウォッシュはともに歯肉炎の評価指標であるmodified gingival index（改良型歯肉炎指数）が10日後に約83.3%減少し同程度に効果的だったという研究結果が出ています[#]Asokan S, Emmadi P, Chamundeswari R. Effect of oil pulling on plaque induced gingivitis: a randomized, controlled, triple-blind study. Indian J Dent Res. 2009 Jan-Mar;20(1):47-51. 。
また、ココナッツオイルを使用した場合でも同様の効果が報告されています。60人の若者を対象とした1ヵ月間の研究では、毎日ココナッツオイルでオイルプリングをすると歯肉炎の評価指標であるgingival index（歯肉炎指数）が30日後に約56.1%減少したことが分かりました[#]Peedikayil FC, Sreenivasan P, Narayanan A. Effect of coconut oil in plaque related gingivitis - A preliminary report. Niger Med J. 2015 Mar-Apr;56(2):143-7. 。
口臭を軽減する
口臭は多くの場合、唾液の分泌が減少し口腔内のバクテリアが繁殖することによって発生する化学物質やガスの臭いが原因です。口臭は、感染症や歯肉炎をはじめ、全体的に口腔衛生の悪化と関係しています。よって、細菌を取り除いて口腔内の健康を改善すれば、口臭が減るという考え方は理にかなっています。
20人の青年を対象とした研究では、ゴマ油でのオイルプリングにより、ひどい口臭持ちだった全ての治験者の口臭が目覚ましく減少し、この観点から標準的なマウスウォッシュと同程度の効果があることがわかりました[#]Asokan S, Kumar RS, Emmadi P, et al. Effect of oil pulling on halitosis and microorganisms causing halitosis: a randomized controlled pilot trial. J Indian Soc Pedod Prev Dent. 2011 Apr-Jun;29(2):90-4. 。
証明されていないメリットと誤解
オイルプリングについては、多くの誤解があります。
メディア等で最近よく見かける、オイルプリングのホワイトニング効果については、特に研究結果などで報告はされていません。
また、オイルプリングは血液から毒素を引き出し除去する一種の解毒剤であると一部で思われているようですが、この考えを裏付ける証拠は特にありません。今のところオイルプリングが身体のデトックス効果やその他の体の疾患に有効という科学的根拠はないのです。
オイルプリングはあくまでも口腔内の健康のためのものであると言えます。口腔内を健康に保つことで、歯周病や虫歯等の発生を回避し、それに関連付けられた健康への悪影響を回避することにつながるということは言えそうです。
オイルプリングはとても簡単
それでは実際にオイルプリングをやってみましょう！使うオイルは、大量のラウリン酸を含有し抗菌特性もあるココナッツオイルがオススメ。香りも味も良いです。
オイルプリングのやり方は非常に簡単です。
1. 口に大さじ1杯くらいのオイルを入れます
2. オイルを口腔内にいきわたらせるように15〜20分ほどクチュクチュしてください。
3. オイルを吐き出してから、水で1度うがいをして歯を磨きます
あまり激しくクチュクチュせずやさしく口の中でオイルを回します。顔の筋肉に過度の疲れや違和感等を感じる場合は、次回行う際はさらにやさしくオイルを回し、オイルの量を少し減らしましょう。
時間帯は、歯を磨く前や空腹時、もしくは入浴する際がおすすめ。
口をすすいだ後にもまだオイルが気になる人は、お湯にお塩を溶かして軽くすすぎましょう。
ココナッツオイルを捨てる際は注意！常温以下で固形化するため、キッチンシンクなどに捨てるとオイルが固まり配水管を詰まらせてしまう可能性もあるので、ペーパータオルなどの紙の上に吐き出してゴミ箱に捨てるのがベスト。
オイルプリングは、ひどい口臭や虫歯や歯肉炎のリスクを減らす民間療法です。関連したたくさんの健康情報がありますが、すべてに科学的根拠があるわけではありません。化学物質をたくさん含んだマウスウォッシュを使用するよりも、天然素材のオイルを使った口腔ケアの一環として日々の生活に取り入れる価値はあるのではないでしょうか。
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