ケトジェニックダイエットと筋肉の関係性
厳密なケトジェニックダイエットでは、1日に摂取するカロリーのうち炭水化物などの糖質から摂取する割合を5%以下にすることを目標とするため、上記で述べた炭水化物による筋肥大の効果は期待できません。よって、長い間、ケトジェニックダイエットは筋肉増強には不向きだという見解を述べた記事が多くのメディアで示されてきました。しかし、近年さまざまな研究結果によりケトジェニックダイエットが筋肥大を妨げるわけではないということが分かっています。そのポイントを以下にまとめました。
脂質で運動エネルギーを補充
炭水化物の摂取が運動や身体活動のエネルギーになるということは上のセクションで説明しましたが、炭水化物がエネルギーとして使い果たされると、脂質がエネルギーとして利用・燃焼され始めます。これをケトーシス状態と呼びます。よって、低炭水化物でも運動パフォーマンスに影響を及ぼさない上に、脂肪が燃焼されるため体重減少も期待できます。
しかし、ケトジェニックダイエットを始めた数週間は体がケトーシス状態に切り替わっていく期間であるため、体力や持久力不足が起こる可能性も[#] Sherrier, M., and H. Li. 2019. “The Impact of Keto-Adaptation on Exercise Performance and the Role of Metabolic-Regulating Cytokines.” The American Journal of Clinical Nutrition 110 (3). https://doi.org/10.1093/ajcn/nqz145. 。しかし、これはあくまでも一時的なもの。逆に、ケトジェニックダイエットが機能しているサインでもあるので、この期間を乗り越えれば通常あるいはそれ以上のパフォーマンスが期待できます。
グリコーゲンはどこへ?
体がケトーシス状態に切り替わっていく期間に、低炭水化物の食事により枯渇したグリコーゲンを補充するためにアミノ酸(タンパク質由来)をブドウ糖に変換する糖新生が体内で起こります。この糖新生により、タンパク質が分解、すなわち筋肉量の低下の可能性が気になりますが、これも体がケトーシス状態に切り替わるとケトン体がエネルギー源として利用されるため糖新生による筋力の低下は防止できると言われています[#]MacMillan, Amanda. 2010. “How Can Glycogen Be Replenished on a Low-Carb Diet?” Livestrong.com. November 23, 2010. https://www.livestrong.com/article/315538-how-can-glycogen-be-replenishe.... [#]MarcAurele, Lisa. 2017. “Gluconeogenesis: Should You Fear It If You’re Low Carb?” December 22, 2017. https://lowcarbyum.com/gluconeogenesis/. [#]Volek, J.S., and Phinney, S.D. (2012). The Art and Science of Low Carbohydrate Performance. (Beyond Obesity LLC ). [#]Nair, K. S., Welle, S. L., Halliday, D., & Campbell, R. G. (1988). Effect of beta-hydroxybutyrate on whole-body leucine kinetics and fractional mixed skeletal muscle protein synthesis in humans. J Clin Invest, 82(1), 198-205. 。この糖新生を補うだけのタンパク質や脂質をしっかりと摂取するケトジェニックダイエットでは、あまり心配はなさそう。ケトーシスに関する基礎知識は過去記事を参照にしてくださいね。
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テストステロンの増加
加齢に伴い減少傾向にある男性ホルモンのテストステロンですが、テストステロンの減少は筋肉量の低下の原因になりうることは以前の記事でもお伝えした通り。ある研究では、ケトジェニックダイエットがテストステロンレベルを増加させる可能性が示唆されています[#]Paoli, Antonio, Pasqualina Cancellara, Pierluigi Pompei, and Tatiana Moro. 2019. “Ketogenic Diet and Skeletal Muscle Hypertrophy: A Frenemy Relationship?” Journal of Human Kinetics 68 (August): 233. 。これもグッドニュースですね。
また、ケトジェニックダイエットが体操選手の筋力量に影響を与えず脂肪量及び体脂肪率が減少したという研究結果や[#]Paoli, A., K. Grimaldi, D. D’Agostino, L. Cenci, T. Moro, A. Bianco, and A. Palma. 2012. “Ketogenic Diet Does Not Affect Strength Performance in Elite Artistic Gymnasts.” Journal of the International Society of Sports Nutrition 9 (1). https://doi.org/10.1186/1550-2783-9-34. 、低炭水化物食のグループ及び一般的な西洋型の食事のグループに分け筋肉トレーニングを10週間行った比較研究によると、両グループ共に同様の筋肉量増加を示したことが分かっています。炭水化物を摂取しないと筋力が低下、もしくは筋肥大を妨げるという単純な図式ではなさそうです。
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