ただの風邪なのに“とりあえず”の抗生物質が最悪な理由。

感染症の原因となる細菌を抑制、撃退するために使用される薬の抗生物質。細菌感染が疑われる場合の治療には適切な抗生物質の使用が必要となりますが、風邪などのウイルス性の症状には機能しないにも関わらず、抗生物質を処方する医者や、以前処方された抗生物質を勝手に使用する人もいたりします。一方、抗生物質の乱用は、その他健康リスクが伴うとも言われています。今回は、この抗生物質についてフォーカスしていきます。
 

とりあえず、処方される抗生物質。

冒頭で述べたように、抗生物質は細菌には機能しますが、ウイルスには機能しません。しかし、喉や
鼻などの症状が細菌感染によるものか、ウイルス感染によるものかが曖昧のまま、とりあえず風邪薬と抗生物質を処方するといったケースも多くあると言われています。OECD（経済協力開発機構）ではこの抗生物質の処方の50%が不適切である可能性があると指摘しています^{[#]“OECD iLibrary.” n.d. Accessed August 11, 2021. https://www.oecd-ilibrary.org/sites/9789264307599-4-en/index.html?itemId....} 。ウイルス感染による症状であるにも関わらず処方された抗生物質を飲むことで、抗生物質が健康に必要な細菌叢を壊滅したり、その他の健康リスクも懸念されています^{[#]“Antibiotics: Are You Misusing Them?” 2020. February 15, 2020. https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/consumer-health/in-depth/an....} 。

世界的に増加する薬剤耐性菌

上記で述べたような抗生物質の不適切な使用や乱用などが背景となり、抗生物質が効かなくなる薬剤耐性を持った細菌が世界中で増えてきています^{[#]“抗菌薬が効かない「薬剤耐性（AMR）」が拡大！ 一人ひとりができることは？.” n.d. Accessed August 11, 2021. https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201611/2.html.} 。以前まで効果があった抗生物質が効かなくなり、軽症で回復していた症状が悪化するようになったり、治療が難しくなり重症化、最悪死に至るといったケースも。アメリカでは年間約200万件にもおよぶ薬剤耐性菌による感染が発生し、約2万3千人もが死亡しているくらい深刻な問題です。この問題の根本的原因である抗生物質の濫用は極力避けるべきなのです^{[#]“Antibiotics: Are You Misusing Them?” 2020. February 15, 2020. https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/consumer-health/in-depth/an....} 。世界的に過去20年間で抗生物質の使用は急増し、この薬剤耐性菌に対抗する新たな抗生物質が開発されていますが、その抗生物質も効き目がなくなるといういたちごっこの状態が続いているのが現状なのです。

抗生物質による副作用やアレルギー症状

抗生物質を服用すると、腸内の細菌の量と種類が劇的に変化する可能性が指摘されています^{[#]“Antibiotics And Probiotics: How Medications Affect Your Gut.” n.d. Accessed August 11, 2021. https://www.henryford.com/blog/2020/06/antibiotics-and-probiotics-how-me....} 。腸内細菌叢のこれらの変化は、下痢、吐き気、嘔吐、及びその他の胃腸の副作用を引き起こしてしまいます。また、抗生物質の種類によっては、膣内の善玉菌を抑制し、カンジダ感染症を引き起こすリスクもあると言われています。アメリカでは抗生物質の副作用で救急科に訪れる人数は年間約14万人。そのうちの約80％がアレルギー反応によるものと報告されています。この原因の１つとして、上記で述べた腸内細菌の変化の可能性が専門家によって指摘されていますが、近年アレルギー症状や喘息が増加している要因の１つに抗生物質の乱用があるとも言われています^{[#]“Antibiotics May Increase Allergies, Asthma.” n.d. Accessed August 11, 2021. https://www.webmd.com/allergies/news/20040526/antibiotics-may-increase-a....} 。抗生物質の歴史上の第一号であるペニシリンは、青カビ由来。それ以降、非常に多くの抗生物質の種類が開発されてきていますが、ペニシリン系の抗生物質が多くの場合アレルゲンとなっている可能性が指摘されています^{[#]“Antibiotics May Increase Allergies, Asthma.” n.d. Accessed August 11, 2021. https://www.webmd.com/allergies/news/20040526/antibiotics-may-increase-a.... Huff, Stephen, and Guest Contributor. 2017. “Five Common Molds That You May Be Allergic To.” June 3, 2017. https://molekule.science/five-common-molds-may-allergic/.  [#]Healthdirect Australia. 2021. “Allergic Reactions to Antibiotics,” April. https://www.healthdirect.gov.au/allergic-reactions-to-antibiotics.} 。

薬物性肝障害のリスク

薬などの摂取が原因で起こる肝臓の炎症である薬物性肝障害。吐き気や痒み、黄変、腹痛などの症状が現れます。これは、多くの薬やハーブ、サプリメントが要因となりえますが、症例の45％が抗生物質によるものというデータも^{[#]“Common Drugs May Cause Liver Damage.” n.d. Accessed August 11, 2021. https://labblog.uofmhealth.org/body-work/troubling-trends-drug-induced-l....} 。この薬物性肝障害は、頻繁に発現するわけではないと言われていますが、多くの医師や患者は、症状がこの薬物性肝障害だということに気が付かずに見過ごしてしまっている可能性を専門家は指摘しています。放っておくと重症化し肝炎などの発症に繋がる可能性もあるので注意が必要です^{[#]“[薬で肝臓が悪くなる!?薬物性肝障害って?].” n.d. Accessed August 11, 2021. http://www.pharm-hyogo-p.jp/HP01/kanjakyousitu/sk60.pdf.} 。

また、アルコールと特定の抗生物質を服用すると、肝臓に重度の負担がかかり損傷を与える可能性があります。抗生物質の種類によっては、胃内容排出及びアルコールの吸収を早め血中アルコール濃度が高くなることも^{[#]“Antibiotics and Alcohol.” 2017. December 15, 2017. https://www.drugrehab.com/addiction/alcohol/risks-of-mixing-alcohol/anti....} 。抗生物質を摂取している間はアルコールの摂取は絶対に避けるようにしましょう。

結腸癌のリスクが上昇する可能性

腸内細菌に悪影響を与える抗生物質は、結腸癌の発生リスクを増大させると考えられています。2021年7月に発表された200万人にも及ぶ被験者による大規模な研究結果では、抗生物質の使用がすべての年齢において結腸癌のリスク増加に関連していることが示されています^{[#]“DEFINE_ME.” n.d. Accessed August 11, 2021. https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(21)01238-2/fulltext#relatedArticles.} 。特に、50歳未満の人でリスク増加が50%と非常に高いことが分かっています。これには、若年層が摂取する傾向にあるジャンクフードやアルコール、甘い飲み物などが増加の一因となっている可能性も含まれているため、抗生物質とマイクロバイオーム(ヒトの細菌叢)の更なる因果関係を解明する研究が進められていますが、専門家は不要な抗生物質の摂取は避けるべきだと強調しています^{[#]Rauf, Don. n.d. “Antiobiotics Tied to a 50 Percent Greater Risk of Colon Cancer.” Accessed August 11, 2021. https://www.everydayhealth.com/colon-cancer/antiobiotics-tied-to-greater...} 。

抗生物質は避けることができる？

体に悪影響を与える抗生物質ですが、治療のために必要な場合ももちろんありますので判断基準が難しいところ。一般に市販されていない抗生物質は、当然、医師の判断にすべてを委ねる必要がありますが、まずは、家に残った抗生物質を自己判断で摂取することや、診察の際に抗生物質の処方を医師に懇願することが愚かな行為であることをしっかり認識しましょう。また、医師がとりあえず抗生物質を処方して様子をみる、といった際には、今一度、本当に必要なのかを確認しましょう。日本の医療制度上、病院は薬を処方すればするほど儲かる仕組みであるため、迷ったときはとりあえず薬が処方されてしまう傾向があるということを認識し、患者側も能動的に医師と向き合い、納得できる処方をしてもらいましょう。
 

まとめ～ただの風邪なのに“とりあえず”の抗生物質が最悪な理由。～
当然のことならが、抗生物質が必要なケースも多々ありますが、本来必要のない抗生物質の摂取もまた体に重大な悪影響を与えることは否定できません。特にウイルス性の風邪での摂取は、もってのほか。特に根拠もなく抗生物質が処方された際は、素直に医師に尋ねるのも決して悪いことではありません。