体の免疫系は、体内で異物を認識し排除する役割を持っています。その異物を認識した際に、異物だけではなく、正常な異物や臓器や細胞にも過剰反応を起こし攻撃を加えることで炎症などの症状が出ることを自己免疫疾患と言います。これには、多くの種類が存在し、クローン病や円形脱毛症、間接リウマチなどが含まれます。自己免疫疾患は、免疫系の機能の不均衡が起因の1つとされていますが、その要因にはストレスや、栄養、ビタミン、ミネラルの欠乏、腸内細菌叢、アレルギーなどの多く挙げられます。
今回は、この免疫系の司令塔として免疫反応を制御するリンパ球T細胞の1つ「ヘルパーT細胞」が持つ2種類の細胞「Th1細胞(以下Th1)」と「Th2細胞(以下Th2)」についてお伝えし、この2つの細胞の絶妙なバランスの鍵を解くことで、自己免疫疾患の改善への道をご紹介したいと思います。
Th1とTh2とは?
主に、ウイルスや特定の細菌などの進入異物を攻撃する細胞性免疫を促進するのがTh1です。これらのウイルスが細胞内に入る際の防御線でもあります。また、Th2は、液性免疫と呼ばれる細菌、毒素、アレルゲンに関与しています。血液やその他の体液に存在する病原体に反応し抗体の産生を刺激する役割を果たします。
正常に機能した状態の免疫システムは、この2つの細胞が連携してシステムのバランスを保ちます。しかし、このバランスが崩れると自己免疫疾患に大きな影響を与えると言われているのです。
それぞれの疾患におけるTh1とTh2の優位性。
自己免疫疾患を持つ1部の人は、例外はありながらもTh1とTh2のどちらかに優位性を示す傾向があります。免疫系のTh1が過剰に活動している場合、Th2の活動は抑制されます。また、その逆も同様です。つまり、シーソーゲームのような関係なのです。以下がそれぞれの細胞の優位性と関連のある自己免疫疾患をまとめたものです。
Th1優位と関連付けられる疾患:
- I型糖尿病
- 多発性硬化症
- 橋本甲状腺炎
- グレーブス病
- クローン病
- 乾癬
- シェーグレン症候群
- セリアック病
- 扁平苔癬
- 関節リウマチ
- 慢性ウイルス感染症
Th2優位と関連付けられる疾患:
- ループス
- アレルギー性皮膚炎
- 強皮症
- アトピー性皮膚炎
- 副鼻腔炎
- 炎症性腸疾患
- 喘息
- アレルギー
- ガン
- 潰瘍性大腸炎
- 複数の化学物質過敏症
これらはあくまで「傾向」の話で、必ずしもすべてのケースに当てはまるわけではありませんが、例えば、クローン病患者のヘルパーT細胞は、Th1が優位な状態にあるという傾向にあるようです。また、Th2が優位になるとアレルギー疾患になりやすく、Th1が劣位にあるとガンになりやすくなったり、結核等の感染に弱くなったりと、この2つの細胞のバランスが大きな鍵となる可能性があると言われています。
どうやって免疫系のバランスを保つ?
Th1とTh2のバランスを取ることによって自己免疫疾患を治療するための方法を提唱しているハーバード大学医学部の研究者で機能性医療の臨床医のDatis Kharrazian医学博士によると、Th1が優位な場合にはTh2を刺激する物質を使用してTh2のレベルを上げ、Th2が優位な場合にはTh1を刺激する物質を使用しTh2のレベルを下げる行うことで2つのバランスを取ることができるという考え方です。では、どんな物質がTh1やTh2の刺激に役立つのかを見てみましょう。
Th1刺激物:
- レンゲ-Astragalus Sinicus-
- エキナセア-Echinacea-
- 薬用キノコ(マイタケとベータグルカンが一般的です)
- 甘草- Glycyrrhiza-(甘草に含まれる)
- メリッサ・オフィシナリス-Melissa Lekarstvennaya- (レモンバーム)
- オタネニンジン-Asian Ginseng-
- クロレラ-Chlorella-
- ブドウ種子エキス-Grape Seed Extract-
Th2刺激物:
- カフェイン
- 緑茶エキス
- 松樹皮エキス- Enzogenol-
- ホワイトウィローバーク-Whitewillowbark-
- リコピン-Lycopene-(イチゴとさくらんぼを除くトマトやその他の赤い果実に含まれる)
- レスベラトロール-Resveratrol-(ブドウの皮、発芽ピーナッツ、ココアに含まれる)
- ピクノジェノール-Pycnogenol-(フランスの海辺の松の樹皮とリンゴの抽出物に含まれています)
- クルクミン-Curcumin-(ウコンに含まれる)
- ジェニスチン-Genistin-(大豆に含まれる)
- ケルシチン-Quercetin-(タマネギ、ベリー、ケールなど、多くの果物や野菜に含まれるフラバノイド)
リストの中には、日常生活でお馴染みな化合物も入っていますが、例えば、Th1刺激化合物に含まれている風邪やインフルエンザの予防に良いとされているエキナセアは、Th1を優位にすることでこれらの予防効果を出しているのだとわかります。また、コーヒーを毎日飲んでいる人は、意図せずにTh2経路を刺激している可能性があるというわけです。
何かしらの自己免疫疾患を持っている人の症状が当てはまるグループの逆のグループでリストアップされている化合物やサプリメントを摂取しバランスを保つという考えもできますが、効果には個人差もあり、医師の元でしっかりとした検査をもとに行うことが推奨されます。一方、以下の物質は、Th1とTh2のバランスを整える効果があるとされており、これらを摂ることでより低リスクであると考えられています。
TH1およびTH2調節化合物:
- 発酵食品
キムチ、サワークラフト、ヨーグルト、紅茶キノコ、ケフィア
- ビタミンA
レバー、タラの肝油、グラスフェッドバター
- ビタミンE
赤いパーム油、放牧卵黄、アボカド、ナッツや種子
- 初乳
また、ビタミンDやEPA/DHAなども効果が期待できるものとして挙げられています。
既にアレルギーやアトピーなどの疾患で問題を抱えている人にとっては、今一度自分の食生活を見直すきっかけとなる有益な情報なのでは?また、不妊治療や不妊症など、妊娠関連の検査でもこの2つの細胞の数値を知ることができますので、気になる方は一度検査してみるのも良いかもしれません。しかし、結果がどうであれ、無理に片方の細胞を刺激するのではなく、普段から2つの細胞を調整する化合物を積極的に食べて無理なく自然にバランスを保つことが大切かもしれません。特に、普段から、ヘルパーT細胞を刺激するとされる食品を多く食べている人は、少し控えるのも良いかも?
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