みなさん、通称「バッキーボール」と呼ばれる60個の炭素原子で構成されたC60フラーレンという分子をご存知ですか?1985年に宇宙望遠鏡の科学者チームによって発見され、特殊な構造により分子に安定性と耐久性があることから、物理学、化学、生物学の分野で幅広く研究されているこの炭素原子でできたボールには多くの健康上の利点があると考えられていて、多くの研究がなされています。今回は、その炭素原子C60の健康効果を見ていきましょう。
炭素原子C60ってなに?
もともと宇宙で発見されたサッカーボール型の分子であるC60フラーレン[#]PubChem. n.d. “Buckminsterfullerene.” Accessed December 9, 2019. https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/123591. は、自然界ではススや岩石からも見つかっているスーパー炭素。ナノテクノロジーを使って人工的に作ることができ、サプリメントや化粧品にも応用され始めています。
スポンジのようにフリーラジカル(活性酸素)を吸収してしまう効能があり、その抗酸化作用はビタミンEの数百倍と言われ[#]Markovic Z, and Et “ Biomedical potential of the reactive oxygen species generation and quenching by fullerenes (C60)” n.d. Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18534675. [#]Chen Wang, and Et “ C60 and Water-Soluble Fullerene Derivatives as Antioxidants Against Radical-Initiated Lipid Peroxidation.” n.d. Accessed December 9, 2019. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jm990144s. 、ビタミンC、E、Aなどの抗酸化物質は一度活性酸素を除去するとその後の抗酸化作用を失ってしまうのに対し、C60は長時間持続する点[#]Bakry, Rania, Rainer M. Vallant, Muhammad Najam-ul-Haq, Matthias Rainer, Zoltan Szabo, Christian W. Huck, and Günther K. Bonn. 2007. “Medicinal Applications of Fullerenes.” International Journal of Nanomedicine 2 (4): 639. で非常に優れています。
近年多くの研究により、C60にはさまざまな医学的応用の可能性があることが示唆されていますが、毒性がないとされているのは動物実験までの話。長期的な摂取による人体に及ぼす影響はまだ十分には研究されていません。
数々の研究により期待されるC60フラーレンの健康効果の可能性とは?
長寿効果
2012年に、ラットを用いた研究[#]pubmeddev, and Et al Baati T. n.d. “The Prolongation of the Lifespan of Rats by Repeated Oral Administration of [60]fullerene. - PubMed - NCBI.” Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22498298. で、C60を摂取したグループは、他の普通餌食のグループより寿命を最大2倍伸ばすという驚きの結果が発表されました。さらに、肝障害を引き起こす毒物をラットに使用したところ、C60のグループでは毒への抵抗性が観察されました。これらの効果はC60 が持つ高い抗酸化機能によってフリーラジカルを抑制するからだと考えられています。
水銀の解毒作用
C60は有害な水銀を吸着し、水溶液中での水銀の溶解度を低下させるため、生体内でも同様に水銀の毒性を低減する可能性があることが研究で示唆されています[#]pubmeddev, and Et al Shi WJ. n.d. “C60 Reduces the Bioavailability of Mercury in Aqueous Solutions. - PubMed - NCBI.” Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24125709. 。
認知機能の改善
中年期のラットの飲料水にC60を入れ、摂取させたところ、加齢に伴う酸化ストレスとミトコンドリアのフリーラジカル生産を減少させるだけでなく、寿命を大幅に延長し、学習や記憶などの認知機能が改善されました[#]pubmeddev, and Et al Quick KL. n.d. “A Carboxyfullerene SOD Mimetic Improves Cognition and Extends the Lifespan of Mice. - PubMed - NCBI.” Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17079053?source=post_page-----16cd16.... 。また、酸化ストレスに対して神経細胞保護作用を有する可能性も[#]pubmeddev, and Et al Dugan LL. n.d. “Buckminsterfullerenol Free Radical Scavengers Reduce Excitotoxic and Apoptotic Death of Cultured Cortical Neurons. - PubMed - NCBI.” Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9173920. 。
美容効果
紫外線による皮膚細胞のダメージを抑制し[#]pubmeddev, and Et al Kato S. n.d. “Fullerene-C60/liposome Complex: Defensive Effects against UVA-Induced Damages in Skin Structure, Nucleus and Collagen Type I/IV Fibrils, and the Pe... - PubMed - NCBI.” Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20036139. 、シワ形成を抑制し、ハリ感を改善[文献]、ニキビ対策にも効果があるという報告も[#]pubmeddev, and Et al Inui S. n.d. “Improvement of Acne Vulgaris by Topical Fullerene Application: Unique Impact on Skin Care. - PubMed - NCBI.” Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20887812. 。
腰痛や関節炎の改善
人為的に関節炎を起こしたラットにC60を関節内に注射したところ、関節局所での炎症および破骨細胞活性による骨破壊元進が抑制[#]pubmeddev, and Et al Yudoh K. n.d. “Water-Soluble Fullerene (C60) Inhibits the Development of Arthritis in the Rat Model of Arthritis. - PubMed - NCBI.” Accessed December 9, 2019. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19918368/. 。また、ある研究ではC60をウサギの椎間板内に注射したところ、椎間板の水分が増加し、椎間板変性の進行が阻害されたと報告されています[#]Liu, Qihai, Quanjun Cui, Xudong Joshua Li, and Li Jin. 2014. “The Applications of Buckminsterfullerene C60 and Derivatives in Orthopaedic Research.” Connective Tissue Research 55 (2): 71. 。つまり、老化などによって骨と骨の間のクッションのような役割を果たす椎間板が傷んで起きる炎症などに効果的な可能性があるのです。
運動能力を強化
多くのアスリートが、C60を使用することで、パフォーマンスやスタミナの向上、活力の増加、疲労回復時間の短縮などを報告しています。「Journal of Nanobiotechnology」では、筋肉疲労の短縮とC60を関連付け、運動能力の強化、疲労軽減の効果の可能性を示唆しています。
その他、インフルエンザの感染阻害効果[#]Shoji, Masaki, Etsuhisa Takahashi, Dai Hatakeyama, Yuma Iwai, Yuka Morita, Riku Shirayama, Noriko Echigo, et al. 2013. “Anti-Influenza Activity of C60 Fullerene Derivatives.” PloS One 8 (6). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0066337. [#]Prylutskyy, Yurij I., Inna V. Vereshchaka, Andriy V. Maznychenko, Nataliya V. Bulgakova, Olga O. Gonchar, Olena A. Kyzyma, Uwe Ritter, et al. 2017. “C60 Fullerene as Promising Therapeutic Agent for Correcting and Preventing Skeletal Muscle Fatigue.” Journal of Nanobiotechnology 15. https://doi.org/10.1186/s12951-016-0246-1. も示唆されています。
C60の実用性は?
C60は通常、水への溶解度が非常に低いため、摂取しても吸収されません。そのため、不純物を取り除いたあと、ナノサイズの脂質カプセルに成分を包む技術を用いてリポソーム化することで体に吸収しやすくすることができます。このリポソーム化されたC60がオリーブオイルなどの油に溶解されサプリメントやオイルとして、また、フラーレン配合化粧品原料として、サンガード、保湿剤、ヘアケア製品等としても販売されています。
健康法に敏感で新し物好きの欧米のバイオハッカーは、既にこれらのC60関連の製品を使用し、さまざまな健康面の改善のレビューを見ることができますが、人体による臨床試験は確証されていませんので、長期的な安全性とリスクは不明です。また、潜在的な副作用と安全性についてもオフィシャルな情報がないのが実情ではあります。
健康に良い上に老化のプロセスに関連する疾患を緩和する可能性を持ったC60は、現在は、ラット研究等のみの段階ですが、将来、人体による効果の確証を得られる日もそう遠くはないと思われます。実際に、既に使用している人による高い評価のレビューもあり、また、深刻な健康被害の報告はまだないようなので、興味のある人は製造元の推奨摂取量を守りながら自己責任で試してみるのも一案かも。
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